理屈を理解することの大切さ(2011/07/10)

一昨日ですべてのお子さんの期末テストが終わってちょっと一息です。夏休みが始まるまでは、ゆっくりしようと思っています。

前回掲載した「1ページを10回繰り返す」の中で、「効率的・合理的な勉強は良くない」という趣旨のこと書いたのですが、そのことについて少し補足させてください。効率的に勉強すること自体を否定しているのではなくて「効率を求めすぎる勉強は良くない」という意味です。理屈を理解することなく問題をたくさん解くとか、とにかく暗記しようとするとか、そういう勉強は良くないと思っています。あるお母様からこの点についてご質問を頂きまして、もしかしたら誤解されている方がほかにもいらっしゃるといけないので。前後の文脈からご判断頂けるとは思いますが、少し誤解を招くような表現でしたね。

理屈を理解することの大切さについて、具体的に書きたいと思います。
たとえば、英語で「不定詞の名詞的用法」という文法事項を説明するときに、

「勉強する」を「勉強すること」という意味にするには、
studyの前にtoをつけて「to study」にする

と私は教えています。それで、

「want to study」 を「勉強することを欲する」

とお子さんに和訳してもらっています。

ほとんどのお子さんが、この堅苦しい日本語に戸惑いますけどね。もちろん、このように和訳するのは、導入の時期だけで、勉強が進んだら「~したい」と訳してもOKということにしています。「勉強する」という動詞を「勉強すること」と名詞化するから不定詞の名詞的用法と呼ばれるわけで、このように理解して初めて「不定詞の名詞的用法」という文法用語の由来がわかるわけです。 これを、「want to」 は「~したい」という意味の熟語です、と最初から教えたら(実際はこう教えられることが多いようですが)、不定詞の名詞的用法という大切な文法事項がどこかにいってしまいます。 「want to」を「~したい」という熟語として覚えるだけだったら、10秒もかかりません。そういう意味では、熟語として覚えたほうが「効率的」なのかもしれません。 ですが、長い目で見れば、決してそうではないと思います。どうしてかと言いますと、不定詞の名詞的用法の考え方を理解しておけば、 主語や補語の位置に不定詞があるときにも応用が効きます。

たとえば、次の和文を英訳するときに、

1 私は英語を勉強したい。

2 英語を勉強することは楽しいです。

3 私の趣味は英語を勉強することです。

「want to」を熟語として覚えているだけの子は1番の問題しかできないでしょう。 不定詞の名詞的用法の考え方を理解できている子は、すべての問題が解けます。

ちなみに、教科書に掲載されている順番で言うと、 1番は中2の1学期、2番は中2の2学期(or中3の2学期)、3番は高校で習います。(学習時期を正確に調べたわけではありません。私が教えている地域では、私の記憶では、この時期に習うと思います。) 私が教えるときには、1番を解く中で名詞的用法の説明をして、2番と3番はお子さんに自力で解いてもらいます。中学生も含めて、ほぼ全員のお子さんが正解します。もちろん、彼らはずっと先に習う内容だとは知りません。ですが、きちんと理屈を理解して論理的に考えれば、習っていなくても答えを導くことができるのですね。

長い目で見れば、これが本当の意味での効率的な勉強だと思います。とにかく目先の点数を上げたいというお子さんからすると(もしかしたら教師も含めて)、非効率な勉強の仕方なのでしょうけど。「want to」を熟語として覚えるだけだったら10秒、不定詞の名詞的用法を理解しようと思ったら10分は必要ですから。

理屈を理解したほうが良いことは、ほかにもたくさんあって、理科でオームの法則を教えるときにキルヒホッフの法則、 電磁誘導を教えるときにもレンツの法則の話を中学生相手にします。そこまでの説明は中学レベルの問題を解くときには不要でしょうが、理屈を理解するには必要だと思います。もちろん、起電力とか電圧降下とか難しい用語は使いませんが。 社会の用語でも、「官営模範工場」という用語を説明するときに、 「官というのは政府、国のこと。営は経営の営。模範は手本という意味。だから、官営模範工場というのは、政府が経営するほかの手本となる工場だよ。」と私は教えています。 こうやって用語に含まれる漢字の意味を理解しながら覚えると、時間がかかります。ですが、このほうが記憶の定着は良いと思いますし、勉強がおもしろくなると思います。

お子さんの中には「覚えてしまったほうが早い」と、 私の理屈っぽい?説明に耳を傾けてくれない子もいます。たしかに、手っ取り早く良い点数を取りたいという彼らの気持ちもわかるのですが、彼らの勉強の仕方では、覚える量が増えてくるといずれ対応できなくなるのではないかと思います。

先日、高校生の女の子に「時制」(多くの高校生が苦手な分野です)を理屈っぽく説明していたら、「英文法が初めて楽しいと感じました」と言ってくれました。私にとってこれ以上のうれしい言葉はありません。こういうお子さんが増えてくれると良いのですが、 実際は目先の点数ばかりを気にしているお子さんのほうが多くて、効率を求めすぎる勉強(=手抜きの勉強)をしたがります。けれど、理屈を大切にするお子さんのほうが、結局は良い点数を取るのですけどね。

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