勉強のやる気をどう引き出すか(その5)(2010/06/23)

私は、自宅にいる時間と同じくらい、他人の家で教えています。よくよく考えると変わった仕事だな~、と自分でも思うのですが、そのおかげでご両親ともお話をさせて頂く機会が多くて有難いことだと思っています。どのように接するとお子さんのやる気を引き出すことができるのか、お話をお聞きしながらいつも考えています

特に、私にとって有難いのは、勉強の意欲があるお子さんの親御さんから、直接にお話を伺えることです。私のお子さんへの接し方は、親御さんから学んだこと、それから 大学時代に勉強した教育学や心理学の知識がバックボーンになっています。

自分から勉強するお子さんのご両親とお話をさせて頂くと、お子さんよりも一歩引いている感じがあります。「この子の人生ですから」とか「子供は自分の思い通りにはならないので」という趣旨の言葉をおっしゃられる方もいます。家庭教師をご依頼になるくらいですから、決して教育に無関心なわけではないと思うのですが、無関心を装っていらっしゃるといいますか、一歩引いていらっしゃるといいますか。 よくよくお話を伺うと、とてもよくお子さんの行動を見ていらっしゃる方が多いです。

以前、教えていたお子さんで、この子は勉強の意欲満々で成績もトップクラスだったのですが、やる気が少し衰えた時期がありました。 宿題はきちんとやってきてあったのですが、いつも私が確認テストをするとほぼ100点だったのに、その時期だけは90点ぐらいでした。あるとき、お母さんが帰り際に玄関先で「今日の確認テストはどうでしたか?」とおっしゃられて、「英語が・・点で、数学が・・点でした」 とお答えしました。すると、お母さんが「最近は、部活動の練習が大変で勉強する時間がなかなか取れないみたいですが、頑張っていますね。」と私におっしゃられました。普段、そのお母さんとは、一言二言の挨拶をするだけでしたから驚きました。しばらくして、その子は元通りやる気を取り戻しました。たぶん、あのときの言動は、お子さんを励ますためのやり取りだったんだろうなと、私のほうがとても勉強になりました。お母さんはお子さんの勉強時間が減っていることに気付いていらして、でも、お子さんに「勉強する時間が取れてないんじゃない?」「勉強しなさい」と直接言うのではなく、私を通して間接的に、しかもお子さんを非難するような言葉ではなくて励ます言葉をおかけになられたのだと思います。このあたりに、お子さんのやる気を引き出す秘訣があるのかもしれません。

学生時代に何の授業だったのか覚えていませんが、「子供にAをさせたかったら、Bと言いなさい」と教わりました。その時は、「ふ~ん、そんなものか」ぐらいにしか思いませんでしたが、この仕事を始めてから、ようやくこの言葉の意味や深さがわかってきました。子供に勉強をさせたかったら、「勉強しなさい」と言っても効果はないのですね。むしろ、「勉強しなさい」と言われれば言われるほど、勉強したくなくなります。これは、子供に限らないと思います。人間は強制されるとその通り行動したくなくなりますよね。ときどき、「勉強しなさい」が口癖のようになってしまっているご両親もいらっしゃって、往々にしてお子さんはやる気がなく、無気力です。

もう3年ぐらい前になるのですが、私があるお母さんに「勉強しなさいとできるだけ言わないで、できれば褒めてあげてください。」とお願いをしたら、「『勉強しなさい』と言わないと、もっと勉強しないでしょうし、褒めるのは苦手です。」とおっしゃられました。「もしお子さんが『勉強するのは苦手で』と言ったら、お母さんはどうなさいますか?」と私がお聞きしたら、むっとされて、お辞めになられました。お子さんの話では「顔を見るたびに勉強しなさいと言われる」ということでした。このお子さんは私の宿題を「ほとんど」やってこず、しかも授業中に私を無視することがあるくらい、無気力なお子さんでしたから、お母さんにもご協力頂かないと難しいと思って覚悟を決めて申し上げたのですが、駄目でした。

さきほどの「子供にAをさせたかったら、Bと言いなさい」で、Aが「勉強」だとしたら、Bは何なのか? お子さんの状況によってさまざまな言葉が考えられると思います。そのお子さんの様子を見て、「これだ」という言葉があれば、ご両親にお伝えするようにしています。これは、すぐに答えが見つかるような簡単なことではありません。人を動かすのは簡単なことではありませんから。大切なのは、大人がよく考えて行動し、お子さんに声かけをすることでしょう。

先日、書店で、3,4歳ぐらいのお子さんが棚の絵本に手が届かず、四苦八苦していました。近くに、お母さんがその様子をじっと見ていて、「絵本を取ってあげるのかな?」と思って私も 見ていたのですが、お母さんは動こうとしません。子供の方もお母さんに助けを求めることもなく、背伸びしたり手を伸ばしたり、いろいろと やっていました。しばらくして、お母さんが「何か乗るものないかな~?」とお子さんに声をかけました。すると、お子さんが、近くに台(子供用の台みたいです)を見つけて、 自分で動かして、それに乗って絵本を手に取りました。子供はお母さんを見て、「キャッキャ」と喜んでいました。お母さんは近くにすっと寄っていって、「すごいね~」と褒めていらっしゃいました。

私は、仕事柄、こういう場面でいろいろと考えてしまうのですが、このお母さんは、じっと見ていたことから推測すると、子供に絵本を取らせようと思ったのでしょう。子供は、お母さんの意図通り、絵本を「取らされた」のですが、子供は自分の意思、自分の力で絵本を「取った」と感じたと思います。もし、子供が自分で絵本を取ろうとしているのに、お母さんが絵本を取ってあげたらどうでしょう?それが何回も繰り返されたら、子供はお母さんが絵本を取ってくれるのを待って、自分から絵本を取ろうとしなくなるかもしれません。また、もし、「台に乗りなさい」とお母さんから指示されていたら、子供の達成感は半減したでしょう。もしかすると、子供は意地になって台に乗らずに絵本を取ろうとしたかもしれません。

「いつになったら子供は勉強のやる気を出すのでしょう?」というご相談をよく受けます。ただ待っているだけでは状況は何も変わりません。少なくとも、お子さんに勉強を強制するという短絡的な行動を続けている限り、 お子さんが「自分から」勉強することはないでしょう。「子供にAをさせたかったら、Bと言いなさい」、Bという言葉をお子さんにかけられるかどうか。 さきほどの玄関先のお母さん、それから書店でのお母さんの行動がヒントになるのではないかなと思います。

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