勉強のやる気をどう引き出すか(その1)(2007/10/21)
「子供に勉強のやる気がありません。どうしたらいいですか。」というご相談をよく受けます。
勉強のやる気を引き出すには、自分(親)がどうして勉強をしなければならないと感じているのかを子供の価値観に合わせて言って聞かすことが大切だと思います。
何事でもそうだと思うのですが、人間は行動をする理由や目的がわからない時は動こうとはしません。例えば、「逃げろ!」といきなり言われても多くの人はその場を動かないでしょうが、「向こうから熊が来るから、逃げろ!」と言われたら誰もがすぐに逃げます。逃げる理由がはっきりとわかるからです。勉強も同じで、子供に勉強をさせようと思えば、勉強することがどうして大切なのか、その理由を子供に伝えてあげる必要があると思います。
では、勉強する理由って何でしょうか。改めて考えると、大人自身もよくわからないというのが正直なところではないでしょうか。お金のため?学歴のため?精神を豊かにするため?など、いろいろと考えられます。しかし、このような抽象的な切り口では子供の心に届きにくいでしょうし、そこまで難しく考える必要はないと思っています。
私たち大人が、どういうときに勉強をしておけばよかったと感じているのかを、自分の体験を踏まえてそのまま話したほうが子供には伝わるではないでしょうか。大人(私も含めて)は、学生時代にもっと勉強をしておけばよかったと思っているからこそ、子供に勉強をしなさいと言うのでしょう。ですから、その思いを、そのまま子供に伝えればよいと思います。
例えば、言葉が通じなくて海外旅行で苦労をしたとか、手紙を書くときに苦労をしたとか、一般常識を知らなかったために恥をかいたとか。別に苦労話でなくても、勉強をしておいてよかったと思うことがあれば、そのことを伝えてもよいと思います。できる限り具体的に話すと伝わりやすいと思います。場合によっては、現在のような生活をするには年収がどれくらい必要で、一般サラリーマンの年収はどれくらいで、というような生々しい話をした方が、伝わりやすい子もいると思います。どう伝えるかは、子供の年齢や興味・関心によって考えなくてはなりません。
私は、英語が嫌いだという子に、次のような話をすることがあります。「言語を学ぶ能力は22、23歳までがピークで、それ以降に身につけようと思ってもなかなか難しくて、今の10倍も20倍も努力しないといけない。これからの時代は、どうしても英語が必要です。会社に就職すれば海外との取引で英語が必要だし、出世するには英語を話せることが条件になっている会社もあるくらいだ。別に仕事でなくても、ネットで海外のサイトを見たり、海外のゲームをするには、英語が読めなくてはならない。海外のオンラインゲームをやりたいと思ったことあるでしょ?でも、大人になってから英語を勉強しようとすると、今の何倍も時間がかかってしまう。本屋に行くと大人向けの英語の本がたくさんあるから見てごらん。そういう本がいっぱいあるっていうことは、英語で大変な苦労をしている人が大勢いるってことだよ。」この話をすると、たいていの子は「え?そうなの?」という反応をします。特に、英語を学ぶ能力は23歳以降は衰えてしまう、今の10倍以上の努力をしないといけない、ということに大きな衝撃を受けるようです。こういうことを知らずに、学生時代に勉強をせず、いざ大人になったときに英語を勉強をしようと思って、 「後悔」するのではないでしょうか。ですから、こういうことで、後悔していることや苦労していることがあれば、それを子供にそのまま伝えた方がよいと思うのです。
先ほど、子供の年齢や興味によって伝え方を考えなくてはならないと書いたのですが、このことは大切だと思います。ある子に教えていたときに、なぜ勉強をしなくてはならないのか、という話になりました。そのときに、その子が、「勉強をすれば、いい会社に入れて、たくさんのお金をもらえることは知っている。でも、自分は別にいい会社に入れなくてもいいし、お金もそんなに要らない。普通に生活していければいい。」と言ったのです。(こういう子は、意外といます。)
私は、自分の生き方を真剣に考えているのだなと感心しました。と同時に、その子に勉強をさせようと思って、「いい会社に入るために、勉強をしなさい。」と言うことは、効果がないと思いました。「いい会社に入るために、勉強しなさい。」と言われて、勉強する子もいるでしょうが、この子には効果はありません。この子の価値観とは相容れないからです。ですから、勉強に対する意欲を引き出そうと思えば、別の方向からのアプローチが必要でしょうし、もしくは、この子の価値観そのものに揺さぶりをかける必要があるでしょう。
子供の価値観に合わせて伝える、「言って聞かす」ことが何より大切だと実感しています。大人が思っていることを、大人の価値観で子供に一方的に言っても、子供には何一つ伝えられていないのです。大人が、子供に「何回言えば、わかるんだ。」と叱るとき、多くの場合が子供に大人の言いたいことが伝わってないことが原因ではないかと、大人の伝え方に問題があるのではないかと思います。先ほどの子の場合でしたら、「勉強をしないと、いい会社に入れないと言っているでしょ。」と何度言っても、その子には何一つ伝わらないように。(自戒の念をこめて。)